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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)128号 判決

主文

原判決を破棄する。

上告人の所有権確認の請求を棄却する。

第一、二審の訴訟費用中、所有権確認の請求に関する部分及び上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

論旨は第一審判決を非難するに帰し、適法な上告理由に当らない。

職権によつて調査すると、上告人は当初、被上告人に対し売買契約に基く本件建物の引渡請求の訴訟(以下旧訴と称する)を提起し、第一審において請求棄却の判決を受け、これに対し原審に控訴の申立をなしたこと、その後上告人は原審口頭弁論において新らたに「上告人が被上告人から右建物の所有権を取得したことを確認する」旨の訴訟(以下新訴と称する)を追加的に提起し、訴を変更する旨申述したことをそれぞれ認め得るのである。ところで右新訴は原審に至りはじめて提起されたものであつて、第一審においてはなんら判決されていないのであるから、原審は新訴につき実質上第一審としての裁判をなすことを要するのである。そして、たとえ新訴に対する原審の結論が請求の棄却であつて第一審判決の主文の文言と合致する場合であつても控訴棄却の判決をなすべきものではなく、単に新訴について請求の棄却をなすべきものである。けだし、控訴棄却の判決は、第一審の判決を維持する旨の裁判であり、該裁判の確定によつて第一審の旧訴に対する請求棄却の判決が当然に確定するに至るからである。しかるに原判決は新訴について、「控訴人(上告人)の請求を棄却した第一審の判決は相当である」との理由で控訴棄却の判決をしているのであつて、ひつきよう原判決は新訴に対する裁判として、全然これと訴訟物を異にする旧訴に対する第一審判決を確定せしめる効果を生ずるに至る判決をしたことになるのであり、この点は違法であつて、原判決は破棄を免れないのである。ところで上告人の新訴は原判示のとおり過去の法律関係の確認を求めるものであるから、確認の利益を欠くものとして該請求は棄却さるべきである。(なお、上告人は原審における訴の変更により、旧訴を撤回し、新訴についてのみ審判を求める意思であつたことは、上告人が原審に提出した請求の趣旨変更の申立書によりこれをうかがうに難くないのであるが、しかし、右旧訴の撤回は他に特段の事由の認められない本件においては、その性質は訴の取下に外ならず、したがつて、これについては民訴二三六条の定める要件を必要とすると解すべきところ、相手方たる被上告人は右旧訴につきすでに第一審以来口頭弁論をなし、かつ旧訴の撤回に対し三月内に異議を述べていることが記録上明白であるから、旧訴の撤回はその効力を生じなかつたものであり、しかもこれについては未だ原審は判決をしていないから、旧訴は依然原審に繋属していると解すべきである。)

よつて、民訴四〇八条、九六条、九五条但書、八九条を適用し、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔)

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